「翻訳者視点で機械翻訳を語る会」に参加しました。

少し遅くなりましたが、1/14(月)に参加した「翻訳者視点で機械翻訳を語る会」について少しだけ書いておきたいと思います。

印象に残ったことをピックアップ

詳細については、Twitterのハッシュタグ#MTS0114で実況されていますので、そちらでご確認ください。

松田さんのお話

・機械と同じことをやっていたら生き残れない。
・論理的思考( 原文を読んでおかしいと気づけるだけの知識と感覚)を持っておく。

生き残り作戦とし掲げられた「翻訳者よ!武装せよ!」というキャッチフレーズには、戦に臨む侍のような、 できることをせねば!という気持ちにさせられました。

高橋さきのさんのお話

MTをただ否定するのではなく利点も認めた上で、何が問題なのかが語られていきました。

・MTの何が悪いか。下訳代わりに使うような「目的外使用」が悪い。

「職業倫理としてはあってはならない」と、アシモフロボット3原則が例に挙げられていたのがとても面白かったです。

斎藤貴昭さんと高橋さきのさんの工数トーク

・「人間」と「MT+PE」の工数比較 。
・「MT+PE」 校閲・校正に係る時間が膨大な時間になる。


上記のお話は、PEを 翻訳者への第一歩と考えている翻訳学習者や駆け出しの翻訳者が、PEとして仕事を始めてしまう前にきいておくべきだと思います。
こういう話をわかった上でPEの仕事を選んだりMTに絡んだ仕事をするのならそれはその人の選択だと思いますが、知っていて関わるのと知らずに関わるのとでは、全然違うと思います。

他力本願になってしまうのですが、こういったお話がもっと翻訳業界の入口のところで聞けるよう、是非発信をし続けていただけたらと思います。

ディスカッション

MTの成長や翻訳業界への参入は、好むと好まざるとにかかわらず 、翻訳者だけの意志では止められないものだと思います。
今回このセミナーで私が期待していたのは、MTが脚光を浴び始めている今、 「実際の仕事ではMT案件がどのくらいあるのか」、「MTにどのように関わっているのか(距離を 置 いているのか)/今後はどう関 っていくか(距離を置くのか)」といった、 実際に活躍している翻訳者たちの体験談や意見でした。
そういった話の一部をディスカッションできくことができたのはありがたかったし、とても参考になりました。

自分の体験談を話してくださった方がいたのですが、その方のお話から、MTに対しては慎重にならないといけないということが良くわかりました。

思い出した過去の経験

*質疑応答、ディスカッションで発言された方のうち、お名前を知っている方もいたのですが、あえてお名前は挙げていません。出席された方はお分かりになると思いますが・・。

ある方が、「MTの盛り上がりが、かつてのTradosの盛り上がりと似ている」とおっしゃていたのがとても印象的でした。

ちょっと昔話になってしまうのですが・・・
Tradosが導入されたのは、私が最初の翻訳会社に入社して2年目くらいのことです。

私のいた部署では某メーカーの取説(英語+15言語)を作っていたのですが、Trados導入前の取説作成には、ものすごくたくさんの人を必要とし、全体の工程数もかなりの数ありました。
英語の取説をベースに十数言語の取説を作るには、言語の数だけの原稿作成とDTP(PageMaker)作業、そして言語ごとに数種類のチェック作業が必要でした。

ざっくりした手順はこんな感じです。
①英語で新しい取説を作るための原稿(指示書)を作る
②①の指示を十数言語の取説に転記して指示原稿を作る
③翻訳指示書を作る
④入手した翻訳と元データを使い、指示原稿に従って言語分のDTP作業を行う。
⑤指示原稿通りになっているかチェックをする。
⑥対英チェックをする。(翻訳・レイアウト)

Tradosは、何十回も行う原稿作成やDTPの手間を一気に削減する(=工数・人員・コストを削減する)強力なツールとして、クライアントに導入を呼びかけました。
Tradosを使って15言語を扱うには、元の英語をTradosで扱いやすい英文にする必要があるけれど(また、MacのPageMakerからWindowsのFrameMakerへ移行)、後の工程のためには必要なもので、それさえやってTradosを使えば、①②⑤の作業が不要になり、③の作業は微調整だけでよくなる、⑥の作業も英語さえちゃんと作っておけば、テキストだけが別の言語に置き換わった文書がこんなに楽に、こんなに安く作れるようになりますよ」、そういってクライアント先でデモをしてTrados導入をすすめました。

私にとってTradosとは、最初から「複雑な組版や、HTMLなど複雑なタグ付きのテキストを利用した、多言語文書の作成には効力を発揮するツール」だったので、Tradosを日英や英日の翻訳用途だけに使うメリットが 実はいまだに 全く感じられずにいます。

ある方もおっしゃっていたように(レベルは全然違いますが)「テクノロジーを使うのは面白い」ので、Tradosを使って少しでも効率よく取説が作れるのが本当に楽しくて、この仕事は自分の転職だと思っていたほどでした。
でも、翻訳する側になった今では、できればツールを使わずに翻訳したいと思っています。あ、話がそれましたね・・・。

Trados導入後、確かにDTPの工程は劇的に楽になったし人員も削減できたのですが、チェックが楽になったか、品質が上がったのかというと、ちょっと微妙です。

翻訳に対するチェックは基本的にはこれまでと変わらないはずなのですが、英文をTradosを導入したが故に発生した誤訳(使いまわし文の不具合)や語順のミスなど、別に発生する問題も増えました。
Trados導入以前の文書に対して行っていたチェックとは、気を付けるチェックポイントがかなり変わってきました。

また、翻訳の品質としては、確実に機械的なものになったと思います。翻訳者による補足的な訳や、言語特性などは無視した、原文にない語は訳さない、直訳に近い訳です。取説だから、それでも許されるというところはあったのでしょう。

レイアウトについてですが、人力でDTPを行っていた時には、チェッカーは数ミリのずれであっても気づくくらいレイアウトに対して敏感だったのに、Trados導入以降、大きくずれることのない、半自動的にレイアウトされる文書のチェックに慣れてしまったチェッカーは、本来なら気づくべきであるミスを見落としたり、楽なレイアウトチェックしかしたことがないチェッカーも出てくるようになりました(Trados案件以外のレイアウトチェックでは見落としが多かったり)。機械がやってくれるのが当たり前で、気にしなくてはいけない点があることすら知らない・・からだったのかもしれません。

また、新たに発生した作業があります。
TMのメンテナンスという作業や、元データからのTM作成という、今までになかった作業も生まれました。これは本当に手間なだけで、お金にならず、安く引き受けてくれる海外の会社を探して依頼したりもしていました。

そういうわけで、品質はというと、見かけはもちろんよくなったのですが、訳文自体の質としてはあまり上がったとは言えません。もちろん、レイアウトミスや別の言語の混入など、くだらないミスは減りましたし、これまでよりも早く、同じくらいのレベルの成果物ができれば、質としては上がったと考えるべきなのかもしれませんが。


さて、クライアントにTrados導入を進めていった結果、どうなったか?

最初は英語原稿の制作や大掛かりな改変のために多くのお金をいただくことができましたが、Trados導入が進むにつれ、コスト削減を強いられることになります。マッチ率が何パーセント以下はディスカウントするとか、そういう話も聞かれるようになります。

もらえるお金は下がる一方ですが、マッチ率が低かろうが高かろうが、後のチェックの工程は変わりません。100%マッチの訳文はお金をもらえないところもあったりしましたが、レイアウトしたときにその文が入っていないといけないわけで、結局はチェックが必要です。レイアウトチェックなどのチェック工程については時間も手間も削減されませんでした。

次に働いた翻訳会社でも同じ会社の取説に関わったのですが、最初にTradosを導入してから結局13年後くらいには、導入時と比べると、ものすごい量の取説を、ありえないくらいの低い額で請け負うようになっていました。
そして、最終的には受注する仕事がなくなりました。(企業側が経営難に陥り、取説の発注数がなくなったとも、強烈な価格減がいいわたされたから拒否したともききましたが、実際のところはどうなのかわからない。)

その後、どうなったかというと、 相当な割合で その企業からの受注に頼っていたその翻訳会社は、経営難に陥って部署ごと人を切り捨てることになります。
そのあおりで私もその会社を辞めることになってしまったわけですが、Tradosの導入は、長い期間で見ると最終的には自分たちの首を絞める結果になったのかなとも思います。

最後に感想

これからも長く翻訳に関わっていくことを考えると、自分が何をやりたいのか、どう働きたいのか、どういう戦略で行くのか、よく考えて慎重に選んでいかないといけないと思いました。
また、MTを自分が使って翻訳をすることはないにしても、興味はありますし、今後存在を無視することはできないと思うので、アンテナは常に張り巡らせておきたいと思います。

いろいろなことを考えさせられた1日でした。